語り「瀬戸ぶんぶん」

昔、千倉の健田村瀬戸に孝行な娘がいました。娘は父を早くに亡くし、病気の母を大切にして暮らしていました。
ある朝、母が娘に向かって「大豆の粥がたべたい」と言いました。先は長くないと思った娘は、何とかして母の望みを叶えてあげたいと思うようになりました。
娘は、一軒のお金持ちの家に行きました。ところが、ここはお金が無ければ分けてはくれません。目の前の蔵には、大豆が山と積まれているのですが、娘には、少しのお金もありません。
ほんの一握りでいいから、大豆を分けてもらいたい娘は蔵に忍び込み一握りの豆を籠に入れて蔵を出ようとしたとき、見張りをしていた男に見つかり、娘は棒で殴りつけられ死んでしまいました。
年老いた母は、娘の変わり果てた姿に驚き、娘にとりすがったまま、息絶えてしまいました。このことがあってから、瀬戸村では、大豆を蒔き、それが双葉になるとぶんぶん虫が出てきて食べてしまい、絶対に育たないのだそうです。なぜか、追っても追っても、ぶんぶん虫は、大豆の双葉ばかりを食べるのです。これはあの娘のたたりに違いないとこの村では、大豆を作るのをやめるようになったそうです。