戦国時代の末、豊臣秀吉が天下を取って大阪に城を築いた時のことです。
全国の大名は、秀吉のために様々な品物を献上しました。
東北の暴れん坊と言われた伊達政宗が献上しようとしたものの中に大きな釣鐘がありました。釣鐘を積んだ御用船が東北から房州をまわって大阪に向かう途中、白浜の鬼が瀬という所で大嵐に出会いました。真っ暗な闇の中で鬼が瀬に乗り上げてしまった御用船に大きな波が押し寄せ、船は音を立てて壊れていきました。そして積んでいた釣鐘もどこかに行ってしまいました。
伊達家では、手を尽くして海を探しましたが、釣鐘は、どうしても見つかりません。一年後、浜辺を通りかかった漁師が沖のほうから、ゴーン、ゴーンとはっきりと鐘の音を聞きました。「あの音は、あの時沈んでしまった鐘の音に違いない」と背筋がぞっとしました。あれから何百年も過ぎた今でも、夜になると鬼が瀬の方から、「ゴーン、ゴーン、世に出たい」と鐘の音が聞こえてくると言い伝えられています。地元のお年寄り達は、孫達を寝かしつける時に「ほらっ、はよう、寝ねぇっていうと、沖の方から、ゴーン、ゴーンと鐘の音が聞こえてくっぞ」と言っているそうです。