昔、山深い村で、人々がまだ鏡を一度も見たことがなかった頃のお話です。
この村に清吉さんという男が住んでいました。清吉さんは、女房と二人暮らし、百姓仕事の合間に薪を作って町に売りに行っていました。
ある日、薪を売りに行った帰り道、新しく出来た床屋に入ってみました。その床屋には、壁に鏡をかけてお客様の顔を映して、髪を切ったり、結ったりしていました。
鏡に映った自分の姿を自分の父親だと勘違いした清吉さんは、床屋のご主人に頼み込んで、薪を売って手にした一両二分で、その鏡を譲ってもらいました。
家に帰った清吉さんは、女房に内緒で、鏡を長持の中にしまいました。鏡をこっそり見ては、喜んでいた清吉さんのうきうきした様子をおかしいと感じるようになった女房が、ある日、清吉さんが、長持の蓋をしめてニヤニヤ笑いながら独り言を言っているのを見つけてしまいました。
夫に女が出来たのではないかと勘違いした女房は、清吉さんに掴みかかっていきました。騒ぎの大きさに驚いた尼さんがかけつけてくると、今度は、女房が実家へ帰ると言い出しました。
仕方なく、清吉さんが、長持の蓋を開けて、「ここにお父っつぁんがいるから」と説明しましたが、女房は、鏡に映った自分の姿を若い他の女と勘違いして、またまた清吉さんに掴みかかっていきました。
今度は、尼さんが鏡を覗くと頭を剃った顔が出てきて、どうもおかしいということで、三人