昔むかし、館山の布良の浜にはタコがいっぱいいて、子供でも手で掴み取れるほどでした。
ある日、貧しい漁師の妻が、浜に出ると大きな一匹のタコが磯で動き回っていました。
これは、いい物を見つけたと妻が近づくと、タコは岩穴の中に隠れてしまいました。しかし、タコの身体があまりにも大きかったため、脚が穴からはみ出していて、妻は、直ぐに見つけることができました。
妻は、そのタコの脚を一本切り取ると、タコが逃げないように大きな石で入口に蓋をしました。
タコの脚を家に持ち帰った妻は、それを晩御飯のおかずとして、夫と一緒に食べました。とても美味しいとタコの脚を食べる夫を見た妻は、それから、毎日、浜に行っては、タコの脚を一本切ってきて、晩御飯のおかずにして食べていました。
7本目の脚を食べてしまうと、タコを憐れに思った夫が、タコを逃がしてやらないかと妻に相談しました。しかし、妻は取り合わず、8日目も浜にタコの脚を切りに行きました。
タコのいる岩穴の前で石をはずそうとしたそのとき、沖の方から大きな波が寄せてきて、その石をはじき飛ばしてしまいました。潮水に当たって力を盛り返したタコは、残っていた一本の脚で、妻の首に巻きつき、妻と一緒に海の底深くに沈んでいきました。
夜になっても帰ってこない妻を心配した夫が仲間の漁師と共に海を捜しましたが、妻が見つかることはありませんでした。