なぜ館山のトウモロコシは生で食べられるの?

トウモロコシ畑
トウモロコシ畑

トウモロコシってどうやって食べますか?塩で茹でたり、スープにいれたり…焼きトウモロコシともなれば、夏の風物詩にもなっていますよね。
ここ館山のトウモロコシは旬の時期が6月から7月の中旬で、なんといっても生で食べた時の食感は言葉に表現しがたい感動があります!今回は誰もが驚きを隠せない、その甘さの秘訣に迫ってみました。

(2012/06掲載:H)

トウモロコシの今昔

最近店頭に並ぶトウモロコシを食べた方ならお分かり頂けると思いますが、トウモロコシは数ある作物の中で稀にみる進化を遂げている作物で、少し前と比べると格段に味が変わってきているんですね。そこで今回は、現在館山で作られているトウモロコシが一体どんなものなのかを知るためにも、簡単にトウモロコシの歴史をおさらいしてみましょう。

トウモロコシ栽培の起源

テオシントとブタモロコシ
テオシントとブタモロコシ

トウモロコシ栽培が始まったのは紀元前3000年頃のアメリカ大陸であったと言われており、現在ブタモロコシと呼ばれている「テオシント」という植物が起源とされています(他にも諸説あり)。マヤやアステカといった古代文明にもその痕跡がみられ、すでに主要生産物として重宝されていたようです。

クリストファー・コロンブス
クリストファー・コロンブス

欧州にトウモロコシをもたらしたのは、クリストファー・コロンブス。15世紀のアメリカ大陸発見の時に、トウモロコシを持ち帰ったことも歴史上の大事件となりました。その後急速にヨーロッパ中に広まり、16世紀に日本へやってきますが、始めの頃は飼料用のトウモロコシが持ち込まれていたそうで、本格的な栽培は明治期に持ち越されることになります。その時目をつけられたのが北海道の広大な大地でした。北海道は明治期に開拓が進められますが、この開拓使らによってトウモロコシの試験的な栽培が行われ、食用の新しい品種の育成に成功したのです。これによって日本でのトウモロコシ栽培が本格化していくんですね。

トウモロコシは、持ち前の栄養価の高さから世界中で生産が広がり、現在では小麦や米と共に「世界三大穀物」の一つに数えられています。小麦が約6億トン、米が約4億トンなのに対してトウモロコシの世界生産量は約7億トンということで実は私たちの生活と非常に密接な食物であることがわかりますね。

新しい品種にはどんなものがあるの?

トウモロコシは用途や土地の性質などに合わせて改良がなされ、これまでに多くの品種が誕生しました。

スイートコーン
スイートコーン
スイートコーン

まずは、一般的なトウモロコシとして誰もが思い浮かべる品種は甘味種(スイートコーン)でしょう。茹でて丸かじりしたり、焼きトウモロコシやコーンスープなど、食卓のさまざまな場面で登場します。

ポップコーン
ポップコーン
ポップコーン

次に爆裂種というのがありまして、こちらはポップコーンに用いられる品種です。粒の皮が非常に硬いため、熱してもすぐに割れることなく圧力に耐えます。粒の中の水分が膨張して、一定の強い圧力のもとで弾けて爆発するのです。この原理によってポップコーンができていたわけですね。

ジャイアントコーン
ジャイアントコーン
ジャイアントコーン

またはアイスなどのトッピングなどでおなじみのジャイアントコーンという品種を聞いたことはないでしょうか。甘味は少ないですが、2cm程にもなる粒の大きさや乾燥した食感を利用してお菓子などによく用いられています。

デントコーン
デントコーン

プリンを作るために用いられたり、あんかけの原料になっているコーンスターチというデンプンがあります。こちらはその名の通りトウモロコシから作られるものですが、その原料となる品種が馬歯種(デントコーン)です。できた粒が馬の歯に似ていることから馬歯種と呼ばれますが、家畜の飼料としても大きな役割を担っています。

その他まだまだ多くの品種が存在しますが、大半のものは家畜用の飼料、そして工業用の原料として使用されています。トウモロコシは単に食べるというだけではなく、その実に含まれるエネルギーを利用して新しい試みにも挑戦されている作物です。

スイートコーン革命の時代と館山

味来(みらい)
味来(みらい)

トウモロコシの全体像を外観したところで、本題に入っていきましょう。今回テーマとなっているトウモロコシはもちろんスイートコーンです。館山のスイートコーンはその名前を「味来(みらい)」といいます。ただ、近年スイートコーンの味が大変革しているさ中、館山ではなぜ味来を選び、作り続けているのか、その経緯をトウモロコシ生産者の方々のお声をお聞きしました。

「昭和の頃まで、トウモロコシは塩で茹でたり醤油で焼いたりしない限りは食べられないものでした。今から10年ほど前ぐらいからでしょうか、スイートコーンの品種が目覚しい甘さをもつようになったんですね。
それからというもの、甘さを売りにしたたくさんの品種が誕生していきました。例えば“ピュアホワイト”は、真っ白な粒で5、6年前に北海道で爆発的な注目を浴びたことで有名です。」

ピュアホワイト
ピュアホワイト

「余談ですが、このピュアホワイトは実は千葉の農場で生まれた品種なんですね。
ではなぜ千葉で売られなかったかというと、キセニア現象といって近くに栽培された他の品種と混ざってしまうことを避けたからなんです。トウモロコシは北海道というのが定番ですが、実は千葉は全国2位の生産量を誇っています。こんな逸話からもわかる通りトウモロコシ開発の最先端を走っているんですよ。」

「そんな中で私たちが10年も前から“味来”にこだわっている理由は、その特有の甘さと食感にあります。今甘さを売りにしているトウモロコシは、糖度という区分でいったらどれも信じられない数値となっています。メロンと同じか、それ以上のものもあるんです。
ただし、生で食べた時に広がるあのジューシーで瑞々しい食感はどれも味来にはかなわないと思っているんです。美味しいというのはもちろんですが、驚きのような感覚があります。」

味来は、こうした新スイートコーン品種の中でも最も古い品種の一つ。味来が生まれて以降、多くの作りやすくて甘い品種が登場してきましたが、それでも未だかつて味来を超える衝撃を与えた品種は現れていないと生産農家さんは語ります。
その理由として、味来は「ラッキーパンチ」なのだ、というストーリーもお聞きしました。味来のような品種は長いこと待ち望まれてきたものの、どうやってもうまくいかなかったところ、南米のとある片田舎でたまたま成功したのがこの“味来”なのだそうです。こんな自然に生まれた味来のイメージも館山にはぴったりですね。

なぜ館山のトウモロコシは生で食べられるの?

神戸地区農家 安西淳さん
神戸地区農家 安西淳さん

さて、いよいよ今回の謎の答えに迫る段となりました。上のお話からわかることは、ここ数年でスイートコーンの大革命が起こり、甘い品種がたくさん生まれてきたということ。なかには味来でなくとも、生で食べられることを標榜している品種ももちろんあります。
それでは、なぜ館山で食べるトウモロコシは生を勧められるのか?この理由を館山市神戸地区のトウモロコシ生産農家、安西農園の安西淳さんにお聞きしました。

[ポイント解説]

①砂地であること
②日照時間が長いこと
③6月~7月は昼と夜の温度差が大きいこと

「館山の特に西岬から神戸地区は砂地の大地です。レタスやひまわりなどの花栽培でもこの砂地が大活躍しておりますが、実は甘味を大事にして作られる作物には砂地は最も適している土壌なんです。
それに加えて、イネ科であるトウモロコシはお天道様が大好きです。館山における初夏~夏の平均日照時間は全国トップレベル(気象庁データ )なので、目一杯光合成できる環境にあることも大きいでしょう。
そして最後に、これはなぜ私たちが真夏のイメージがあるトウモロコシを6月から7月の中旬にかけて栽培するのか、ということに直接関るのですが、昼と夜の気温の差なんですね。トウモロコシという作物は昼夜の温度差が大きければ大きい程栄養や甘い成分を含みながら成長します。またこの季節は虫が少ないので無駄な農薬を使わずに自然に育てられるところも魅力です。
そんなわけでトウモロコシの美味しさを最大限に感じて頂くためにも、もぎたてを生で食べるようにお勧めしています。」

食べる感動的な甘さとその食感が口コミで広がり、トウモロコシの収穫体験に来る方々が年々増えてきています。生産農家さんからしてもこのことは喜ばしいことのようで、今後そうした機会をより一層増やしていく予定だとのこと。そこで最後に収穫を体験してもらうことへの思いをお聞きしました。

NPO法人おせっ会 移住体感ツアーの様子
NPO法人おせっ会 移住体感ツアーの様子

「私たちの収穫体験というのは、もちろんお客様にとれたてのトウモロコシの味を体感してもらいたいというのが一番ですが、『食育』という観点も非常に重要視しているんです。
どうしても小さいお子さんはお菓子などの濃い味に惹かれてしまうので、好き嫌いが多くなって栄養バランスが崩れてしまうことも多いです。そんなお子さんにも、このトウモロコシの味は強いインパクトを与えてくれると思っています。幼いうちに『こんな野菜があるんだ』という体験を脳裏に焼き付けてもらい、野菜のイメージを変えていってほしいんです。
また、ただ収穫するだけでなくトウモロコシやこの土地にまつわる小話をするようにしています。例えば『トウモロコシのひげは粒の数だけはえてるんだ』なんて話をすると目を丸くして驚く子もいるんですよ。カップルや家族、世代を越えてそんな思い出を作ってもらって、またいずれ時期が来た時に館山を思い出して来てもらえたら本望です。」

収穫体験というと、ちょっとしたアトラクションのように考えられることもありますが、館山のトウモロコシ生産農家さんは、持ち前の衝撃的な味を生かして食育にまで貢献できるように収穫体験を受け入れているんですね。トウモロコシの味は、1日置いたら半減するとまで言われています。是非一度獲れたてもぎたての館山産トウモロコシをご賞味ください。そして、そんな体験を話題に、家族での団欒、カップルでの一時を過ごしてみてはいかがでしょうか。

収穫体験&直売所 百笑園

館山のトウモロコシを収穫体験しながら食べることのできる施設に「百笑園(ひゃくしょうえん)」という直売所があります。この直売所、獲れたて野菜以外にも地元産品が集まる場所であり、何より地域の情報共有の場となっていることで注目を集めているんです。どんなところなのでしょうか?

店主の井坂健太郎氏は関西出身。高校の時から農業に興味を持ち始め、大学の農学部で勉強した後、地域密着型の直売所に可能性を抱き始め、現在の百笑園の構想が出来上がってきたとのこと。

どんなことを目的に百笑園を開かれたのですか?

「食の安全などを求める声が高まる中、安心でおいしい『直売所』という施設が、地域の情報交換の場として機能して、その土地ごとの独自性を引き出し再発見することができるのではないかと思い始めました。可能な限り地元の特産に焦点を当てて、ちょっとした情報から奥深いところまでカバーしたインフォメーションスペースができたらいいなと思っています。」

平成23年5月に開店されたそうですが、その後どうでしょうか?

百笑園昨年5月にオープン
百笑園H23年5月にオープン

「まだまだやりたいことを挙げたら限がありませんが、たくさんのメディアに取り上げて頂くなど、こうして活動していることに少なからず意義を感じています。農業だけに限らないコミュニティースペースとして定着して、一つ一つの体験が長期的に繋がってほしいという目標も見えてきています。」

今後は、農業や地元神戸の伝統行事なども含めてさまざまなワークショップなども行っていきたいと語る井坂さん。三輪バイクなどを置いて、いずれは神戸全体を紹介できるようになりたいなぁとワクワク話には事欠きません。
ユニークなコンセプトをもった新しい直売所「百笑園」。旬の時期に合わせて数々の体験メニューも用意されています。興味ある方はトウモロコシ体験も含めて、一度気軽に足を運んでみて下さい。

百笑園 季節ごとの収穫体験メニュー
季節ごとの収穫体験メニュー

 

 

 

 

 

 

 

 

百笑園

〒299-0224 千葉県館山市藤原837
電話 0470-28-3200 FAX 0470-28-3200
E-Mail:info@hyakusyouen.jp
担当 井坂健太郎

コラム「トウモロコシの栄養価」

トウモロコシは、アフリカや中南米においては主食として生命を支えるほどに栄養に富んでいます。
主成分はでんぷん。たんぱく質、脂質、糖質をバランスよく含み全体的なエネルギーを供給します。また食物繊維が多彩で、脂質の吸収を抑えコレステロールを抑制し、便秘の予防や改善、大腸がんの予防にも効果を発揮することが知られています。
ほかにも、疲労回復を促進するビタミンB群、血圧の上昇を抑えるカリウム、老化を防止するビタミンEなどなど、万能野菜なんですね。
ただし、一度収穫すると足がはやい作物としても有名で、一日置くと栄養価が半減するとまで言われています。買ってきたらその日のうちに食べるのがいいでしょう。もしそれが難しければ、茹でてラップで包み冷蔵庫または冷凍保存をお薦めします。(写真=百笑園でのトウモロコシ体験)