「館山」と「レタス」 この2つのイメージ、結び付きますか??
館山には、さんが、なめろう、房州うちわ、唐桟織(とうざんおり)、里見焼、貝細工、つづれ錦織特産品などなどたくさんの特産品がありますが、実は「レタス」も特産品だったんです。名付けて神戸レタス(かんべレタス)。「こうべ」ではなく「かんべ」と読みます。兵庫県の神戸市も、もとは「かんべ」だったようなので、むしろこっちがオリジナルなぐらいです。皆さん、これからは「神戸」を「かんべ」と呼びましょう!
さて、それでは今回の謎に迫ってみたいと思います!
(2011/11掲載:H)
神戸レタスは、日本初の冬レタス??
レタスは西洋野菜ですので、日本では比較的新しい作物です。神戸においても、レタスが大々的に栽培される以前はキュウリやスイカの産地として栄えていました。それでは、レタス栽培の始まりはいつなのでしょうか。
日本でレタスが栽培されるきっかけになったのは、第二次大戦後の進駐軍だと言われています。レタスといえば、長野県の高原レタスが有名ですが、こちらも進駐軍への軍用が始まりです。ところで館山は終戦後初めて進駐軍が上陸した土地であったということをご存じでしょうか?驚きですよね。東京湾の入口にある館山は、海路における首都防衛の最後の砦、軍事戦略上非常に重要な東京湾要塞司令部があった場所です。そのため、多くは取り壊されてしまっていながらも、今でもたくさんの砲台跡地や防空壕などが残っています。館山と戦争の関係はまた別のテーマを設けて追求せねばならないでしょう…。
ともあれ、終戦直後に真っ先にアメリカ兵が上陸した土地であり、本州で唯一直接軍政が敷かれ、多くの進駐軍が出入りしたこの館山で、西洋野菜が作られないわけがありません。また、関東圏でも比較的温暖で砂地の土壌をもつ館山は、高原レタスとは特徴の異なる良質な冬レタスを栽培できる絶好の環境にありました。こうした経緯があって、館山が日本で一番早く冬レタスを作り始めたと言われているわけですね。
館山市清浄そ菜組合結成
さて、当時のアメリカ兵は日本野菜の栽培事情を前に、神戸地区に次の点を要望しました。
・レタス・パセリ・セロリ・サラダ菜などの西洋野菜の栽培
・清潔な野菜栽培環境と害虫の検査
戦前の日本は肥料が少なく、野菜作りには下肥(糞尿)を使用していましたが、これは進んだ農業技術をもっていたアメリカの兵には受け入れがたいことでした。当時の様子が次の文に表れていますのでご紹介します。
「米軍は回虫卵によりレタスが汚染されることを警戒した。そこで直接来房し、圃場の土やレタスを持ち去り検査した。回虫卵が見つかれば不合格産地として買い付けなかったので、関係指導機関や出荷組合の責任者は、その対策に大変苦慮したという」
「米軍の回虫検査は厳しく、当時の経験者は苦い思い出として残っているといわれる。検便は家族全員、約150人で保健所に検査し、回虫については1~2回程度の投薬でパスしたものの、十二指腸虫については、薬は大変飲みづらく、投薬した翌日には家族一斉に黄色い太陽を見たと語られ、身体から離れるまでに丸3年を要したと言われる」
(『レタス20年の歩み』レタス組合の歴史 昭和56年)
こうした困難を乗り越えて、全国的にいち早く清潔で安心な野菜を栽培しようと結成されたのが、「館山市清浄そ菜組合」です。昭和32年のことでした。
今でも神戸レタスを栽培している生産団体を「清浄そ菜組合」といいますが、どこか聞きなれない言葉ですので、疑問に思っていた方がいらっしゃるかもしれません。神戸の野菜は、非常に洗練されていて質の高いものが多く、特にレタスは毎年の築地市場における品評会でトップクラスの称号を獲得するほど、高い評価を受けています。神戸地区に野菜品質へのこだわりが伝統的に根付いているのは、組合結成以来の農家さんの努力と思いが引き継がれているからではないでしょうか。「清浄」という言葉に始まった神戸レタスの歴史、それは戦後焼け野原から新しい日本を創り出す大きなエネルギーの表れでもあったのです。
―神戸レタス 実績の歴史―
昭和44年 国の野菜指定産地に認定
NHK番組「早起き鳥」にて紹介
昭和46年 千葉県レタス立毛共進会 特別賞3名
昭和52年 千葉県知事賞受賞
他受賞多数
新風巻き起こる神戸産のレタス 現在!
これまでの概説で、神戸農業の歴史が、いかに館山の、ひいては日本の歴史と密に絡み合っているかお分かり頂けましたでしょうか?そうした歴史の局面において、神戸地区の農業者は敏感に新しい態度でもって問題と向き合い、常に消費者の笑顔を念頭に置いてきたのです。
この神戸流儀の農業スタイル、市場においては常にトップクラスの高評価を叩き出してきたものの、大型スーパーの全国展開などで野菜全体の価格が下落したこともあって、一時不振を余儀なくされておりました。全国的にも後継者問題や安価な輸入品との価格競争など、日本農業の行先が危ぶまれているのはご承知の通り。
しかし、この逆境だからこそ輝くのが神戸スタイルです!持ち前の柔軟なアイディアと、これまでに築いた日本一の味を活かして、昨今新風が巻き起こっております。
どんな動きがあるんでしょうか?
そこで今回は、館山市清浄そ菜組合青年部役員であり、神戸地区の農業に新たなビジョンを導き出している農業経営者・安西淳さんと、地元館山出身で全国的に著名な料理研究家・川上文代先生との談話の中からそのポイントを探ってみました。
① 組合員全員がエコファーマー
―安全で美味しい野菜を育てるための土壌づくり―
驚くことに、館山市清浄そ菜組合の組合員全員が農林水産省指定のエコファーマーの認定を受けています。エコファーマーとは、持続性の高い農業生産方式の導入に取り組んでいる農家に対して都道府県知事から与えられる称号のこと。平成11年から始まった制度です。最近は有機農に取り組む農家も増えてきている時代なのでご存知の方も多いかもしれませんが、農薬や化学肥料は人体に影響を及ぼすだけでなく、土壌やそれを取り巻く環境にも変化を与えてしまいます。長期的なビジョンの中で農業を考えると、こうした農薬や化学肥料はなるべく少なくしていった方が好ましいでしょう。この取組みに組合員全員が参加しているという「清浄そ菜組合」、こういった所にも安全で清潔、クリーンな農法を開発してきた先人の意志が受け継がれているように思います。
「農薬や化学肥料を使うと早く育つんだけど、棚持ちが悪くなってしまうんだよね。神戸産のレタスは、化学肥料をなるべく使わずに、じっくり時間をかけて育てた冬レタスだから、その分中身もぎっしりしてて日持ちがいいんです」と安西さん。またそれに加えて川上先生によると「デリス・ド・キュイエール(渋谷区にある先生の料理教室)にも何回かに1回農薬が多くかかった野菜が届きますが、普段そういったものを使っていないので、たまに入っていると料理全体が農薬の味に染まってしまうのがわかるんです。その時はもう捨てるしかないので、勿体無い」とのこと。
しかし、そうはいっても本来農薬は農作業の効率化を目指して開発されたもの。農薬を減らすには大変な苦労が伴います。「レタスにつく虫っていうのは、幼虫の間は全く目に見えないほど小さいんです。それでいてビニールを被せて保存すると、一匹でレタス丸ごと食べられてしまうんですから困ったものです。彼らからしたら野菜パラダイスですよまったく」と安西さんが述べるとその場は笑いの渦となりました。
ここで、館山市清浄そ菜組合が実践している農薬を使わない害虫対策をご紹介します。
今年は、直売所「百笑園」が窓口となってナイトウォーキングが催されたほど見た目も美しい防虫設備。名前を「防蛾灯」といいます。
どうですか?綺麗でしょ?
レタス栽培で最大の天敵は、「オオタバコガ」と呼ばれる蛾の幼虫です。彼らは1つの結球に1~2個の卵を産むのですが、孵化した幼虫は結球の内部まで侵入し、レタスを食べ尽くしてしまうそうです。実際にこの蛾を防ぐために、農薬を使った防虫対策やフェロモン剤にて誘引することによる捕殺も行われてきたそうですが、効果が年々薄れてきていることや、安西さんの述べる「レタス自身の生命力」を大事にする視点から新たな試みに踏み込むことになりました。オオタバコガは夜に卵を産み付けるのですが、防蛾灯の黄色い光は、彼らが昼を感知する光の周波を出しており、夜を昼と勘違いさせることができます。そのため、農薬や様々な防虫剤を用いずに蛾の侵入を防ぐことができるのです。
② 消費者に対してオープンな農業
―顔の見える信頼感と旬の野菜を楽しむ喜びー
川上先生は、自身の主宰する料理教室にて神戸野菜を選ぶ理由として、安西さんなど神戸農家さんとの「顔の見える信頼関係」と「旬」によって季節を楽しむことが大きいと述べます。
川上先生
「最近は、スーパーなどでも農家さんの写真を載せている所が増えてとてもいいと思いますが、やっぱり一番はお互いの顔が見える関係だと思います。神戸農家さんだからこそ、どんなところに工夫しているのかとか、今年から新しくなったポイントとか、たくさんのお話を聞くことができます。だからこそ今年はどうかなぁ~と期待して旬の野菜を待ちながら季節を楽しむことができる。もうすぐトウモロコシの時期だなぁとかね。」
安西さん
「そうそう、どんなお客様に対しても最高のレタスを食べてもらおうと努力しているわけですが、こうして直接やり取りのあるお客様からお褒めの言葉を頂いた時にはやりがいを感じずにはいられないですね~。特に先生は、ズバっとおっしゃられる方なのを知っているので(笑)。流通に乗せるというのは良くも悪くも大きさや形が評価の強いポイントになると思うのですが、農産物の楽しみ方ってもっと他にもたくさんあると思っているんです。その間口をどんどん広げていけたらいいですよね。」
今や日本の料理研究第一人者ともいえる川上先生は、年間を通して料理の多くのバリエーションを著作や教室にて教えてくれます。そんな彩りと美しい料理の背景には、「旬」の食材選びがあるとのことです。私たちは現在、ほとんどの作物を年中食べることができますが、ミネラルも多く栄養価も高い「旬」な野菜を使いながら料理を楽しむ、という先生ならではのお言葉に、改めて料理の深さと喜びを感じました。
この点は、安西さんの述べる「農産物の楽しみ方」も共通しているのではないかと思います。元小売業にて活躍していた安西さんは、人が作物を購入するときの流れを「目で感じて」→「舌で味わう」と表現されました。レタスは種類によっての見た目もほとんど大差なく、味のインパクトは他の野菜に比べて少ないといいます。だからこそ、じっくり味わってもらった上でわかる本物のレタスの味をできるだけ多くの人に知ってもらいたい。その信念のもとオープンで信頼性の高い農業を実践しているのです。
安西農園ではNPO法人おせっ会や直売所の百笑園らとともに体験農業の受け入れや案内を行なっています。今まで気づかなかった農産物の楽しみ方を知って、これからの時代の野菜との付き合い方を学びあえるといいですね。
③ 神戸産レタスを使った料理の数々―
さて、これまでの説明で神戸レタスが館山の特産品であり、かつ常に進化を遂げてきた館山農業の代表作であることが大体おわかり頂けたと思います。神戸産のレタスは12月~3月頃の今が旬!ここでいよいよ、神戸産のレタスを使った館山市ご当地メニューをご紹介します!
レタスカレー
OPA VILLAGE オーパヴィラージュ
〒294-0226 千葉県館山市犬石1687
Tel:0470-28-1000 (代)Fax:0470-28-1431
<取扱店>
オーパヴィラージュ・百笑園・かもめグリル
海ほたる・道の駅鄙の里・富楽里・かねふく
里見横町・おんだら市場
レタス巻寿司 波奈総本店
波奈総本店
〒294-0045 千葉県館山市北条2619-6
Tel:0470-22-1385
レタス巻寿司 若鈴
若鈴
〒294-0042千葉県館山市上野原91-4
Tel:0470-23-9022
レタスポタージュ
OPA VILLAGE オーパヴィラージュ
〒294-0226 千葉県館山市犬石1687
Tel:0470-28-1000 (代)Fax:0470-28-1431
※コース料理での一部やイベントでの特別メニューとなりますので、ご了承ください。
レタススイーツ
KIYOTA Cake Factory
〒294-0045 千葉県館山市北条1901-50
Tel:0470-24-0465
※要予約ですがレタスシュークリームもあります。
レタスドレッシング
OPA VILLAGE オーパヴィラージュ
〒294-0226 千葉県館山市犬石1687
Tel:0470-28-1000 (代)Fax:0470-28-1431
<取扱店>
オーパヴィラージュ・百笑園・かもめグリル
海ほたる・道の駅鄙の里・富楽里・かねふく
里見横町・おんだら市場
日頃から私たちの生活に欠かすことのできない野菜摂取。こんなに身近なものだからこそ大事にしたいですし、時には盲点になっていることも多いかもしれません。神戸農家の方たちは、エコファーマーとして環境に優しい農業を実践し、また同時に消費者に対してオープンな農業を心がけるというアナログな取り組みの中で、農業に新しい風を吹かせています。情報に溢れている今だからこそ、データには換算できない「美味しさ」や「安心感」を一番に考えていくー。
そんな真心のこもった神戸産のレタスを是非ご賞味ください。
<このページで紹介した神戸産レタスを取り扱った店舗>
より大きな地図で 神戸産レタス取り扱い店 を表示
<なんと房州産に特化したお店が東京にOPEN!>
2011年10月から、南房総の農産物や加工食品を取り扱う「房州おんだら市場」が下北沢にOPENしました。
レタスカレー・レタスドレッシングなどなど、神戸レタス産品も多く取り扱われておりますので、
是非一度足をお運びになってみてください!
記事にも登場した料理研究家川上文代先生のレタスを使った料理のレシピが紹介されています。
1.レタスらっきょうチャーハン
2.レタスのピーナツ和え
3.レタスと温泉卵のにんにく醤油がけ 神戸レタスを使えば美味しさ倍増です!