なぜ館山にサンゴがあるの?

イボサンゴの仲間

館山の海にサンゴが生息しているなんて言ったらビックリする方もいるかもしれませんね。 海水浴の場としては有名であっても、サンゴの存在を知っている方はあまり多くはないようです。 実は館山の海では南国の象徴ともなっているサンゴや熱帯魚が見られます。今回は、知る人ぞ知る館山の海の中へとご招待します。

(2012/7掲載:H)

サンゴについて

見た目も美しく、海の中に広がる世界に色彩を与え続けているサンゴですが、どんな生物なのか見聞きすることは意外に少ないようです。サンゴってどんな生き物なのでしょうか。

①サンゴは植物ではなく実は動物

海中の鮮やかな花のように生息しているサンゴですが、写真などを通して見られるサンゴはいかにも植物のようですよね。しかし、サンゴの生物学的な分類は動物で、餌を捕食して生きています。
ただし、常に褐虫藻と呼ばれる植物プランクトンと共生しており、それらの光合成によって栄養分を得ているため、その意味では動物でもあり、植物のようでもあると言えるのかもしれませんね。

サンゴは動物

②サンゴとサンゴ礁は異なる意味

サンゴと呼ぶ時とサンゴ礁と呼ぶ時では意味が変わってくるんです。サンゴ礁というのは、サンゴを中心とした海中の生物たちが作る地形のことを指す言葉なんですね。
サンゴの中でも造礁サンゴと呼ばれるサンゴは、海中からカルシウムを固定させ硬い石灰質の骨格を広げていきます。彼らによって作られた岩のような地形をサンゴ礁といいます。つまり、サンゴのすべてがサンゴ礁になるとは限らないということです。

サンゴ礁は地形の名前

③海の中におけるサンゴの役割

サンゴが生育する熱帯の海が透明清澄であるのは、温帯や亜寒帯の海に比べて、栄養が少なく、プランクトンも少なく、いわゆる生産性が低い海であるからです。ところが、サンゴが発達している地域だけは、例外的に生産力の高い海域を形成します。
これはなぜかというと、サンゴ体内の共生藻が光合成によって海中の汚染をきれいにしていること、そしてその複雑な体の形から多様な生物が育つ環境を提供しているからです。またサンゴ礁ともなれば、波浪から海岸の侵食や崩壊を防ぐことにも役立っています。

海を豊かにするサンゴと共生藻

このように、サンゴは美しさだけではなく、意外にも海にとっても貴重な役割を果たしていたのですね。そのため、現在公私を問わず多くの団体がその重要性に気づき、サンゴの保全運動に参画しています。

では、世界全体におけるサンゴの生息地帯はどのようなところなのでしょうか?環境省が発行しているサンゴの分布図をみてみましょう。

サンゴ礁分布図(環境省発行)

多くのサンゴが、赤道近くの東南アジア周辺に集まっていることがわかります。島嶼部において青々とした海の中に大小さまざまなサンゴ礁が群生している写真やイラストはこの地域のトレードマークともいえるのではないでしょうか。(他にも大西洋や東アフリカ沿岸でサンゴが確認されています)
そのまま緯度を北のほうに移動していきますと、小笠原諸島を北限としてマークが途絶えることがわかります。つまりサンゴ礁の北限は小笠原諸島ということになるんですね。

ただし、これはサンゴ礁の話。上に説明した通りサンゴとサンゴ礁は意味が異なります。館山のサンゴはサンゴ礁を作ってはおりませんのでここには表示されていませんが、サンゴの北限域として調査は定着しています。(『珊瑚』鈴木克美著 法政大学出版1999年p61)こうしたことも館山のサンゴがあまり知られていない理由なのかもしれません。

館山(沖ノ島)のサンゴ

それでは、館山ではどんなサンゴが見られるのか見ていきましょう。

今回体験させて頂いたのは、NPO法人たてやま海辺の鑑定団によるスノーケリングです。館山には数々のダイビングショップもあり、海へ潜る方法も数々のコースがありますが、浅い海でのスノーケリングは初心者にも比較的安心して取り組むことができます。

スノーケリング体験(寒い時期なのでウェットスーツを着ていますが通常は水着です。)

これはほんの一部で、他にもサンゴの調査研究によって現在館山を含む南房総一帯には約30種類ものサンゴが生息していることが知られています。(西平守孝・Veron JEN(1995)『日本の造礁サンゴ類』 海游舎)

歩いて行ける無人島として有名な沖ノ島(沖ノ島についてはコチラ)ですが、この場所の周辺では水深2mほどの浅瀬でサンゴを見ることができます。また、サンゴ以外にも温帯や亜熱帯にいる魚やその他多種多様な生き物たちが見られるんですね。
そのため小さなお子様でもサンゴを観察できることから自然学習の場として最適なスポットとなっています。ぜひ一度沖ノ島の海の中を体験してみてください。ご興味のある方は、以下NPO法人たてやま海辺の鑑定団まで。

沖ノ島・サンゴに出会えるスノーケリング体験プログラム概要

日時7月中旬~8月下旬まで
対象小学生以上…小学4年生未満は保護者同伴で参加 ☆健康な方
定員10名程度 最低催行人数5人 定員になり次第または、申込み開催日3日前まで 催行決定開催日3日前
参加費1人3,000円(スノーケル、マスク、フィン、ジャケットレンタル料、ガイド料 等)
服装・持ち物水着(長袖Tシャツ着用,スイムウェア尚可) マリンシューズ・手袋(軍手など)
詳しくはNPO法人 たてやま・海辺の鑑定団 電話・FAX0470-24-7088 E-Mail umikan@lapis.plala.orjp URL http://www.umikan.jp/

なぜ館山にサンゴがあるの?

それではなぜ、こんなにも高緯度の館山でサンゴが見られるのでしょうか?

館山の海に詳しい御二方にその理由をお聞きしました。

珊瑚館 故三甁雅延さん(2012年6月頃取材)
故三甁雅延さん(在りし日の珊瑚館にて)

「それは、とってもシンプルなことだと思います。館山の海には約6000年も前からサンゴが生息していたんですよ。数々の隆起によって今ではそれらが陸の上で見られるのですが、館山では『沼サンゴ層』として有名なスポットになっています。
もちろん今とは気候も変化していますが、化石にみられる多くのサンゴが、現在も館山周辺の海で確認されています。サンゴは同じ個体が分裂して数が増えるものもありますので、そんなサンゴの場合今見られるものは6000年前に生きていたものと同じものなんですよね。」
そうなんです。この沼サンゴ層、平成天皇が皇太子の頃何度も行幸されたほどに多くのサンゴの化石が見られる地帯として有名です。この付近はウォーキングコースともなっており、お散歩がてら「光藻」や「ビャクシンの木」など他にも多くの見所を巡りながらサンゴの化石を楽しむことができます。

「この化石群を見ると、昔はこの地域は亜熱帯~熱帯と同じくらいの水温があったことが推測されます。この後気温が下がった現在でもサンゴが見られる理由としては、やっぱり黒潮なんですね。サンゴの北限域といいますが、これは黒潮の北限域と同じなんです。」

水温が18℃から30℃くらいまでの暖かい海に生息すると言われるサンゴですので、もちろん緯度の高い地域では容易に見られることはありません。ここ館山でサンゴが見られるのは暖流の暖かい海水が南から北へ上がってくるからなんですね。
それでは、暖流沿いには至るところでサンゴが見られるのでしょうか?というと、上の図でみたようにそうでもないことがわかります。それでは黒潮流域の中で館山にサンゴがみられる理由は他にもあるのでしょうか。

NPO法人たてやま海辺の鑑定団理事長 竹内聖一さん

「暖流の黒潮は暖かいのですが、潮の流れが速いことで有名です。それに対してここ館山の海は周囲を陸に囲まれた入江となっていますので、鏡ヶ浦と呼ばれるほどに波静かな海です。強い流れで北上してくる黒潮ですが、館山湾周辺の海流やこの入江によって抑えられ一転、穏やかな海に変わります。
この点が、サンゴの産卵と関わっていると考えられます。産卵後サンゴの子どもは2~6週間海中に浮遊し、その後岩場に固着することで成長していきますので、この時点で海の流れが早ければ生育に不適切な海まで連れ去られてしまうこともあるでしょう。館山の海は穏やかですので、サンゴの赤ちゃんをゆっくり育てることができるのではないでしょうか。」

竹内聖一さん(たてやま海辺の鑑定団理事長)

いかがでしたでしょうか?浜辺での海水浴はもとより、海の中まで見所満載の館山。この海中の世界を創り上げてくれていたのは、暖流の黒潮と彼らを包み込む館山湾の入り江にあったのですね。こうしたことから、サンゴのみならず海の生き物が多種多様であることにも繋がっているようで、館山の海の中を愛する人々が多いことも納得です。

海の神秘に魅せられて

館山の海岸沿いを歩くジャック・マイヨール氏

その中での有名人といったら、なんといってもジャック・マイヨール氏でしょう。フリーダイビングの世界記録を次々と塗り変えた超人的な肉体を備え、波瀾に満ちた数奇な人生を辿る中、地球環境の保全やイルカとの共生を求める数々の格言を残した伝説的な人物。リュックベッソン監督による映画『グランブルー』などをみて知っている方も多いのではないでしょうか。

このジャックマイヨール氏、実は晩年の9年間を館山で過ごしていたんですね。「ジャックスプレイス」と呼ばれた古民家での思い出は、数々の遺品とともにさまざまな場所で紹介されておりますので、下記に催されている「館山を愛した ジャックマイヨール展」などにも足を運んでみてはいかがでしょうか。

さて、なんとこのジャック・マイヨール氏が館山に住む大きなきっかけになった人がいました。海の中が多種多様な生物で溢れる館山は、ダイビングの名所としても知られています。数々のダイビングショップやスクールがあり、海中神社やマンボウなど海の中のスポットもたくさんあるんですね。
そんなダイビングショップの一つ「シークロップ(sea crop)」を営む成田均さんという方、この方がジャックマイヨール氏と深い親交を育んでこられた張本人です。

成田均さん(ダイビングスクールsea crop代表)

ジャック・マイヨール氏の人生、また成田さんとの数々の感動的なエピソードについては、この場でご紹介するには余りありますのでまたの機会に譲らせて頂きます。ご興味ある方は、ジャックマイヨール氏の関連図書や『潜る人』を読んでみてください。

今回は最後に、この成田さんから伝説的なフリーダイバーをも魅了した館山の海についてお話を伺ってみました。

ズバリ館山の海の魅力って何でしょうか?

「南房総全体に言えることですけれども、ここは昔から陸の孤島だったんです。私も27年前に移住してきた者なんですが、温かくて澄んだ海にすっかり惚れ込んでしまいました。海というのはどうしても人が入りすぎると汚れますので、やたらと人の手が加えられていないところが魅力的ですよね。」

館山でのダイビングは他と比べてどうですか?

「館山の海はもとにある海と黒潮がぶつかる海流の影響か、各地でみられるさまざまな魚や生き物が一手に集まっているように思います。88年から91年まで魚種についての国勢調査がありまして、私たちシークロップチームは1日で203種見つけて全国で2位になったこともあるんですよ。」

深い海の中のサンゴはどうですか?

「スキューバダイビングで見られるサンゴは浅瀬のものとはまた違った種類がみられます。ただ、前に海外のサンゴ研究団体が来られた時に始め深海のサンゴは7種類と記述されていました。そこで私たちが調査を行うと24種類発見できたということもあります。なかなかすぐにはすべて見つけにくいと思いますので、是非館山のダイビングショップに遊びに来てください。海の神秘へ招待しますよ!」

館山は、鮨の街としても知られていますが、この理由もこの魚種の多さにあるのかもしれませんね。海の中の生き物たちが創り上げる陸とは全く異なった別世界、一度見てみたいものです。シーンと静まり返った海中から見上げる太陽の光、自然と一体化するような感覚、そんな知られざる館山の魅力に足を踏み入れてみませんか?

館山市のダイビング

館山市にはその海の見せる美しい素顔を生かして、海岸沿いにいくつものダイビングスクールやショップがあります。
ダイビングのライセンスが取得できる他、体験ダイビングや様々なワークショップを行なっておりますので、以下のページからご覧ください。

千葉ダイビングサービス協力会のページへ

海の写真家kumako

館山の美しい海の中を紹介しているkumakoという写真家の方がいます。海に潜ることができない方でも、館山の海の中がどんな様子なのか伺うことができますので、以下のWeb siteにアップされたお写真を是非ご覧ください。

umino kumako’s stream

海の写真家kumako

館山を愛したジャック・マイヨール展  2012年7月開催の様子!

ジャック・マイヨール氏が生前日本における通訳を頼んでいた飯島マルティーヌさんによる、ジャックマイヨール展が「渚の駅」にて開催されました。ジャック・マイヨール氏の残した遺品や数々の言葉、そして写真集、貴重な資料の数々。

飯島マルティーヌさん 開催時の展覧会にて
ジャック・マイヨール展