館山駅から海岸線を南西に約4キロ。海上自衛隊館山航空基地の裏手に「沖ノ島」という館山屈指の観光スポットがあります。ただこの場所、行ってみるとわかるのですが「島」といいながら陸と繋がっているんですね。見た目も島っぽいしなんだか不思議な場所だから、まぁいいか、で止まっている方いませんか?今回は、この謎をスッキリさせるとともに沖ノ島の魅力をスクープ!行ったことがある人もない人も、次回行く時は新しい沖ノ島に出会えるかも?
(2012/04掲載:H)
沖ノ島とは?
沖ノ島は、大房岬から洲崎に繋がる館山湾海岸線のちょうど中央に位置します。上からみると大きく手を広げた大房岬と洲崎の両腕に対して頭のようにも見える場所です。その海は例年行われる環境省の透明度調査においても最高レベルの水準に認定されるほど。名実ともに南房総屈指の美しい海に囲まれたフィールドであり、毎年夏にはたくさんの海水浴客で賑わいます。
ただし、沖ノ島の魅力は夏にとどまりません。富士山を背景に、むき出しの断層、太く生い茂った木、浜に散りばめられた美しい貝殻たちなど、手の加えられていない自然がそのままの状態で残っているんですね。
そこで今回、まずはこの沖ノ島の魅力について、長年沖ノ島を含む館山の環境保全やエコツアーを推進している「NPO法人 たてやま・海辺の鑑定団」理事長 竹内聖一さんにお聞きしてみました。
海辺の鑑定団 竹内聖一さんによる3つの解説 about 沖ノ島
①サンゴの北限域 黒潮にのって流れ着く海からの贈り物
沖ノ島を含む南房総の海はサンゴが生息する北限域です。サンゴというと常夏の島をイメージしがちですが、実はこんなに緯度が高く都心から近い場所でも見られるんですね。なかでも沖ノ島では約30種類のサンゴが発見されており、いずれも比較的浅いところで観察することができます。
これには南から上がってくる黒潮が水温を高く保ってくれていることや沖の島の海がきれいで、栄養分に富んでいることが関わっているんです。沖ノ島の海は、速い流れの黒潮が通過しているため、いつもフレッシュな状態であり、また深層水によって常に栄養が補給されるなど、サンゴが生育するために必要な条件に恵まれているわけです。
この黒潮によって本当にいろんなモノが漂流します。時にはサメやクジラが打ち上がったり、イノシシが流されてきたことも。日本列島を縦断して遠い旅をしてきたものばかりですが、なかでも貝殻の種類には目をみはるものがあります。
②海と森が一体となった自然との出会いの場
ビーチコーミングという言葉をご存知ですか?海辺に上がった貝殻や流木、小さな生き物たちを拾ったり、じっくり観察してみたりすることです。
漂流物は、長い年月をかけてたどり着いたものばかりで、一つ一つに歴史やストーリーが刻まれています。これはどこからきたんだろう?どうしてこんなカタチになったんだろう?なんて思いを馳せながらそれらを見つめ直してみると、改めて海辺は宝の山なんだということに気づきます。
館山の海は、全長31.5kmありますが、そのほとんどの海岸線を歩けることが大きな特徴です。中でも海と森とが一体となった沖ノ島は、生き物から岩、貝殻、砂場に至るまでみどころに溢れているので、自然との出会いを求めながら散策するにはこれ以上にはない環境といえるでしょう。
③沖ノ島海底遺跡の発見
実は今から20年ほど前に、大変なものが見つかったんです。
なんと縄文時代の遺跡です。
三甁雅延さんという方が、夏休みに交換学習をしていた小学生とビーチコーミングをしている最中に偶然イルカの骨を拾い、その量が尋常ではなかったため研究員の方に調べてもらったところ縄文時代の遺跡であることがわかりました。
その後2003年から3度に渡って千葉大学考古学研究室による発掘調査が行われ、それらが考古学研究上、非常に貴重な遺跡であることが証明されたんですね。
本当に驚きです。
もともと沖ノ島は、化石を含んだむき出しの断層を見ることができるなど、地形の隆起からできる海岸段丘に囲まれていて、誰しもが地殻変動の歴史を目で見て感じることができる場所です。そのため、何か遺跡があるのではと言われていたそうですが、ここまですごい発見だとは思いもよりませんでした。
もちろん遺跡を拾って持ち帰ることはできませんが、太古の日本人の生活現場がこの下に眠っているんだということ、そして地球が生きているんだという事実を実感として学ぶことのできる場所だと思っています。
なぜ、沖ノ島には歩いていけるのか?
さて、沖ノ島がどれほど魅力的な場所であるかお話し頂いたところで、これらを踏まえて竹内さんに今回の謎について答えを教えてもらいましょう!
沖ノ島に歩いていける理由は、地震による隆起で島と陸との間にある地層が上昇し、そこに海から運ばれてきた砂がどんどん堆積することによって陸繋島になったことによります。房総半島の先端は、昔から地形の隆起が著しい場所として有名でして、これまでに縄文海進(約6000年前の縄文時代に日本で発生した海水面の上昇)後、陸地が約25メートル隆起していることが確認されているんです。
昔の写真を見てもらえばわかるように、もとは「沖」にあった島、沖ノ島だったんですね。
それが1923年の関東大震災で約2メートル地盤が隆起。1930年に海軍航空隊の基地が埋め立てによって出来上がり、陸地が沖ノ島へ近づきます。この時点ではまだつながっていなかったようですが、その後沿岸流によって砂が少しずつ堆積し、1948年あたりに道ができあがったということです。実は歩いていけるようになったのは、つい最近だったんですね。
以上、海辺の鑑定団理事長竹内聖一さんのお話から、沖ノ島がどのような場所であるのか、そして沖ノ島の魅力についてよくおわかり頂けたのではないでしょうか。竹内さんは沖ノ島を観光地としての名所を越えた「フィールド」であり、地域の「宝物」なのではないか、とお話くださいました。海も美しく、景観も素晴らしい、ただ沖の島の魅力はそれに尽きることなく、「自然」という漠然とした大きなものに肌で触れ、感じて、何かを発見できる、そういった場所なのかもしれません。 また今回の謎の答えでしたが、こちらは沖ノ島の魅力が交差した賜物だったわけです。一つには南海から千葉県に向けて北上してくる黒潮の力です。地上にいては埋もれたり土に還るものたちが、どんぶらこどんぶらこ、と海に揺られて今も旅をしています。この黒潮の速い流れによって運ばれた様々な海からの贈り物たち、また浜辺に挙げられた貝殻や流木の数々。この海の力で、隆起した地盤に砂がたまり、砂州を形成し、陸繋島になった沖ノ島。今も生きる地球の中と外の力によってこの場所は変化を続けています。 昨年の震災による被害は未だ私たちの心に傷を残し続けますが、「地震」を恐怖の象徴ではなく、地球が生命活動を行なっているのだ、という事実を知らせるものとして、改めて地球との新しい付き合い方、そして防災について考えていく契機を与え、その美しさや安らぎと共に発信し続ける場所が沖ノ島なのだと、今回の取材で感じました。 |
ガイドさんと回る沖ノ島の探検ツアーが定期的に開催されています!
沖ノ島無人島探検
日時 | 主催者にご確認ください。 |
場所 | 館山市沖ノ島 |
定員 | 各20名(最少催行人数3名 前日17:00に決定) |
対象 | 4才~大人(小学生以下は保護者同伴参加) |
参加費 | 大人1人(中学生以上) 2,500円 4才~小学生1人 1,200円(機材費・探検セット・指導費など)※2023年4月より料金が変更になりました |
服装・持ち物 | 季節にあった服装、帽子 砂浜・岩場を歩けて、多少濡れてもいい靴 (ウォーターシューズ可、ビーチサンダルは向きません) 飲み物、レジ袋など持参 |
申し込み・問合せ先 | NPO法人 たてやま・海辺の鑑定団 電話・FAX0470-24-7088 E-Mail umikan@lapis.plala.orjp https://www.umikan.jp/ |
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さて、これほどまでに多様な顔を持ち合わせ、私たちに癒しと驚きに満ちた発見を与えてくれる沖ノ島。今回は、幼いころから沖ノ島と共に育ち、沖ノ島の神秘的な姿に幾度となく出会ってきた方々をご紹介します。
安房の海守(うみもり) 故三甁雅延さん
まず、安房館山の海といったらこの人。三甁さんです。館山出身の三甁さんは、会社員としてのお仕事をされるかたわら、「no.1 only.1」に満ちあふれたこの館山の海をたくさんの方に知ってもらいたいと休日を割いてボランティアでの体験学習を数多く開催されてきました。そんな三甁さんの活動が実を結び、今や館山の海の素晴らしさを伝える様々な機会が、多くの方々の力によって提供されています。
この三甁さん、竹内さんのインタビューにも登場しましたが、沖ノ島海底遺跡の発見者でもあるんですね。そこでその当時のお話をお聞かせ頂こうと伺ってみました。
縄文時代の遺跡を発見された時は、どんなお気持ちでしたか?
「ちょうど87年の夏に8月8日の花火大会に合わせて、交換学習で群馬県の小学生がこちらに来ていたんです。私は水泳指導を任されていましたので、たまたま子供たちをつれて沖ノ島に行くことになりました。ぐるっと一回りしている間に地層の中にある化石などを見せながら『もしからしたらここから古代遺跡が~』というような話をしていたんです。その日は、異様に浜砂が移動していましてね、岩盤がむきだしになっていました。そして海水浴客のパラソルの間をくぐるように進んだ時、その岩盤に骨が入っているのが目に入ったんです。『うわっ、さっきおじさんが話した話が本当になっちゃったよ!』といって大慌てで先に歩いて行った生徒を呼び戻して、みんなで大騒ぎです。人が集まってきてしまったので、大声で『きっとこれは貴重な遺跡なので、皆さん持ち帰らないようにそっとしてください!』と叫んだんですよ~。」
びっくりですね~。世紀の大発見は、交換学習に来た生徒さんたちと沖ノ島を散策している最中におきたのです。その日は普段より潮が引いていて、いつもは海の下にいる遺跡が剥き出しになっていたということが発見に繋がりました。ただそうであっても、骨を見つけることができたのは、常に沖ノ島を見守ってきた三甁さんならではの「気づき」だったのだろうと思います。
この縄文時代の遺跡は、どのような発見だと言われているんですか?
「はい、87年に私たちが見つけてから、すぐに研究員の方が縄文時代の遺跡であることを確認しました。その後は詳細な調査研究がなされるまではそっとしておこうということになりかれこれ16年間毎日のように沖ノ島を見回りに行ったものです。そして、2003年にようやく念願の考古学研究が始まります!これは嬉しかったですね~。千葉大学考古学研究室の岡本先生によって、合計で3度に渡って科学的な発掘調査が行われまして、つい最近研究の内容が発表されたところです。
発掘された土器や遺物によって、沖ノ島海底遺跡が1万2000年~1万年前あたりの、比較的短期間に形成された遺跡だということがわかりました。大量のイルカの骨を筆頭に、たくさんの動植物の遺跡や骨角器が発見されましたが、日本で最も古い出土例のものが何点かあり、非常に貴重な遺跡だとのことです。特に、氷河期後の地質から落葉広葉樹が見つかったことによって、これまで針葉樹の植生とされていた当時の地球環境が覆されることになったということで、考古学研究を前進させる資料となったといいます。」
考古学研究を覆す資料・・・。何気なく縄文時代の遺跡と聞いておりましたが、ここまで貴重な研究資料になっているとは知りませんでしたね。それもそのはず。研究発表として公開されて展示が始まりだしたのが、つい最近なのです。今後研究がより深まり、先史時代の様々な謎が解明されることを期待しましょう。そして、もし沖ノ島で遺跡を見つけてしまった場合は、そっとしておきましょうね皆さん! 三甁さんありがとうございました。
※長い間、沖ノ島の自然や縄文遺跡、そしてサンゴ礁をこよなく愛した三瓶さん。この記事は三瓶さんの在りし日の活躍を忍んで、取材当時のまま残します。(SZ)
※タイトルの「安房の海守」とは千葉大学岡本東三教授が三甁さんの功績を称えた呼び名です。(『房総半島の先端から列島史を考える』岡本東三著 2011年千葉日報社参照)
沖ノ島に一番近い宿 まるへい民宿 平塚さん
沖ノ島に歩いて行ける距離にある民宿がここ「まるへい民宿」さん。そんなお宿のご主人ならば、ということで「沖ノ島の楽しみ方」についてお聞きしましたところ、開けてビックリ玉手箱です。ウキウキするような楽しいお話を次々とお聞かせ頂き、さながらファンタジーに誘いこまれたようでした。
そこで、今回はお聞きしたお話より、「釣り」と「タイドプール」そして「沖ノ島の音」に絞ってご紹介します。
沖ノ島は釣りの良場
「沖ノ島周辺には海の中に岩場があって、そこに魚がたくさん住み着いています。これを『根』っていうんですけどね、このポイントを知っておくと釣りに役立つと思いますよ。
『ナカ根』『ガンゾウ根』『アージャ』『シマデェ(島出)』『崖ん棚』『メェ根(前根)』ってのが代表的な根でして、なんか面白い名前が多いですけど、こちらの漁師さんの方言なので、昔から知られている場所ってことです。大体スズキ・黒鯛・カサゴ・アイナメ・メバル・メジナ・ウシタナゴ・キス・シタビラメ・ベラなどが各ポイントごとに釣れますよ。」
タイドプールで生き物観察
「沖ノ島の植生はとても多彩で、周りに岩場が多いですから、干潮の時にできあがるタイドプールで生き物を観察したりするのも家族でできるとても面白い遊びです。干潮(夏だとちょうどお昼ごろ)を狙って沖ノ島の浜辺に行くと至るところにタイドプールができています。
気に入った場所を見つけて、そこの水をバケツかなんかで抜いてしまうんですね。そしたら岩場に隠れている色んな生き物たちが水を求めて出てきますので、それを捕まえてバケツにいれて観察してみましょう。イソギンチャクの仲間やアゴハゼや熱帯魚の仲間、時には得体のしれない魚まで登場して面白いですよ。」
沖ノ島で鳴り響く音
「静かになった夜などに、沖ノ島に訪れてみると、普段聞くことの出来ないとても美しい音が聞こえます。多分これは、小さな森が海に囲まれているという不思議な場所だからでしょうけど、生き物の声や波の音、木々のせせらぎも、いつも聞こえるものとどこか違って、すごい神秘的な雰囲気に包まれています。音が共鳴しているんでしょうね。そんな沖ノ島に触れて、ここは何かのパワースポットなんじゃないかなぁって思うようになったほどです。是非一度夜の静けさの中で、沖ノ島の自然を感じてみてください。」
まるへい民宿は、大旦那さんと女将さん、若旦那さんの3人で家族経営をなされているアットホームな海辺の民宿。大旦那さんは前に安房博物館の学芸員であり、また養殖の研究をなされていた人ということで、海のことなら何でも知っています。そんなことから、魚の親善大使「さかなクン」とも親しいそうで、宿の通路は魚くんの絵でいっぱいです。
大旦那さんも若旦那さんも声を合わせて言うことには、沖ノ島はただそこにあるものを見たり触れたりするだけで楽しめる場所だということ。道具を使った海の楽しみ方もたくさんありますが、思い至った時にふらっと訪れてみたり、天気が良い日に一周回ってみたり、それだけで十分「遊び」になります。そんな場所もそうたくさんはありません。海が恋しくなるこれからのシーズン、今年は新しい海辺の楽しみ方を一つ増やしてみてはいかがでしょうか。
まるへい民宿
〒294-0034 千葉県館山市沼985-10
TEL: 0470-22-2803
FAX:0470-22-2809