なぜダッペエはゆるキャラではないの?

館山市マスコットキャラクター ダッペエ

館山市マスコットキャラクター「ダッペエ」ってご存知ですか?
黄色の肌に、まん丸のお目目。長いお鼻に真っ赤なくちびるが特徴的な、子供から大人までに大人気のキャラクターです。近年地域PRや活性化を目的としてたくさんのマスコットキャラクターが誕生しておりますが、彼らはその愛らしい姿や立ち振る舞いから「ゆるキャラ」と総称されています。
しかしその中で、実はこのダッペエ、デザインからプロフィールに至るまで「ゆるキャラ」とは一線を画した独創性に溢れているのです。 「ダッペエについて

(2012/04掲載:H)

ダッペエってどんなキャラクターなの?

まずは、ダッペエそのものをまだ御存知ない方もいらっしゃると思いますので、このダッペエについて簡単におさらいしてみましょう。

本名ダッペエ
分類イヌ(雑種)
由来房総の方言「~だっぺ!」が名前の由来。
口癖「ワンワン」ではなく「ペエペエ」と吼える。
喋る時は語尾に「っぺ!」がつく。
家系里見八犬伝の「八房(やつふさ)」の親戚の末裔の知り合いの親戚。
性格おおらかで適当。
房州育ちであばら骨が1本足りない。

ダッペエの名前の由来は、房総に伝わる方言からきています。もちろん地方によって多少変化はありますが、関西弁で「~や」、九州弁で「~けん」などという有名な語尾を、房総の方言では「~だっぺ」といいます。今でも生来地元で過ごされている方などと話せば、この愛らしい大らかな口調と接することができます。もちろんダッペエは房州弁を語りますので、この言葉で更新されるダッペエブログは見ものです。

チーバくん誕生日で大集合
里見まつりにて震災の義援金呼びかけ

そして分類は、「犬」。なぜ犬かといえば、家系の特徴にも表れているように、館山が『南総里見八犬伝』ゆかりの町だからです。江戸時代の文豪曲亭馬琴による『南総里見八犬伝』は、「八房」と呼ばれる犬と、「伏姫」という名の姫の物語から始まる長編傑作。ダッペエは、この八房の「親戚の末裔の知り合いの親戚」ということで、八犬伝との関係は間違いなさそうです。

そして最後に「あばらが一本足りない」ということ。房州の慣用句ともいえるこの「あばらが一本足りない」という表現は、一般に「穏やかで温厚な房州人気質」を意味する言葉として使われています。なぜアバラ?ということが引っかかる方には、拙記事「房州人は、なぜアバラが一本足りないの?」を是非お読みください。このアバラには房州の歴史が凝縮されています。
実は、このアバラが足りないということは、ダッペエの身体にも表れているんです。お腹のあたりをよくみてください。黒い穴が見えますか?これはアバラが抜けてしまった穴なんですよね。そしてまた、もっとよく見るとこの穴、半円になっていることがわかります。これは、ダッペエの胴体が「D」の形をしているからなんだそうです。「D?」なぜだと思われる方は、ダッペエの頭をご覧ください。「ぺ」の字になっていることをお気づきになりましたでしょうか。つまり、「D」と「ぺ」で「ダッペエ」なんです。身体そのものが名前になっていたんですねぇ。

あばらが一本足りないダッペエ

ちなみに自然と「ダッペエくん」などと呼びたくなりますが、房州気質の彼に「君付け」は似合わない、とのことで呼ぶ時は「ダッペエ」と呼んであげて下さいね!
このように、ダッペエは名実ともに房州を代表する特徴をもって館山市に誕生したとってもユニークなマスコットキャラクターなんですね!

ダッペエ誕生の軌跡

それでは、このダッペエはどのようにしてこの世に誕生したのでしょうか。まさにこの始まりがダッペエの「ゆるキャラ」ならぬ鍵を秘めているのではないか、と狙いを定め筆者は館山市役所商工観光課を訪ねてみることにしました。
ダッペエの窓口を務められている担当者の方にお会いしたところ、異動の多い市役所の人事の中、ダッペエ誕生劇をよく知っている方は、今はここにはいらっしゃらないとのお話しをお聞きしました。ただし、ここで担当者の方から衝撃的な事実を打ち明けられることに!

ダッペエは何キャラなの?

「ダッペエは、脱力系キャラと言われているんです。」

なんと、「ゆるキャラ」ではないダッペエは、「脱力系キャラ」だった!?

ダッペエがひときわ異色な風貌とプロフィールを併せ持つマスコットキャラクターであることは知っていたものの、ダッペエが「脱力系キャラ」であることは知らなかった筆者は、未だよく掴み切れていないこの「脱力系」という新しい「ゆるさ」にみるみるうちに惹かれていきました。
ただし、この「脱力系」という真意も誕生期に立ち会っている方がよくご存知のはず。ということで、すぐさま当時の商工観光課課長であった方を探して頂くこととなりました。

館山市農水産課課長 荒井毅さん

そして、探し当てた方が、現農水産課 荒井毅課長。この方、以前「地産地消」をテーマにしている謎でも取材させて頂いた方であり、つい最近も農水産課から立て続けに4冊のガイドブックを発刊された立役者であらせられます。
この荒井課長が商工観光課課長時代にマスコットキャラクター制作にも関っていたのですね!驚きでした。

マスコットキャラクター誕生秘話

当時商工観光課課長であった荒井さんは、各地で多くのマスコットキャラクターが登場する中、館山市にもイメージとなるキャラクターができないものかと思案していました。

そんなある日偶然、荒井さんの手元に同級生の務めるちばぎん総合研究所発行の「マネジメントスクエア」という機関誌が届きます。総合研究開発機構による房総の濃密な経営情報誌をペラペラとめくる中、目に飛び込んできたのが、The World of GOLDEN EGGSなどでデザイン業界に閃光を放ちつつあるデザイナーの作品でした。それにしてもなぜ房総の情報誌で取材されているんだろうかと思い、詳しく読んでみると、この記事のテーマが「千葉県の有名人」。まさか、と思いつつ読み進めると、なんとこのデザイナーの方の出身が館山市だったのです。

The World of GOLDEN EGGS

平生からアートに触れて過ごす荒井さんは、もちろんこの方の作品を好んで視聴されていたとのことで、同郷にこのようなクリエイターの方がいることに喜びを覚えるとともに、すぐさま、ちばぎん総研に務める同級生に連絡をいれました。すると同窓ならではのやりとりの中で、このデザイナーの方を直接取材された記者の方と連絡をとることができ、そしてご紹介されたのが・・・

studio crocodile代表 文原聡さんだったのです。

studio crocodile代表
文原聡さん

日産noteのCMでの「低燃費少女ハイジ」やカルピスソーダの「RODY kids」などなど、今やTVを見たり街中を歩いていたら必ずと言っていいほどどこかで触れることのできるstudio crocodile作品達。その独特のデザインと不思議な空間を次々と生み出すスタジオの代表を務められているのが文原聡さんです。
この方が館山出身であること、そしてstudio crocodile作品が掲載された機関誌を偶然に読んだ荒井さんのアートへの造詣と、御取次してくれた友人の方々のご縁。こうした連鎖反応が次々と結ばれることによって他に類をみることのない独特のキャラクター「ダッペエ」誕生の礎が築かれることとなりました。

荒井さんが直接文原さんに連絡をとると、文原さんも故郷館山へ貢献できるということならば、ということで二つ返事でキャラクター制作の依頼を受けてくれたということで、その日から荒井さんと文原さんによるダッペエデザインの原案が組み立てられることになります。2009年4月のことでした。

ダッペエ制作にまつわる秘話

その後荒井さんは、文原さんに館山を象徴するイメージを何点か伝えたのみで、総合的なプロデュースはすべてstudio crocodileにお任せする方針を取りました。そうした初期の案に従って、着々とマスコットキャラクターが仕上がっていきます。「ダッペエ」という名前も初めの頃に、文原さんが命名されたそうです。そして年度末にさしかかった頃、いよいよstudio crocodileらしい作風に仕上がりつつあるサンプルを市役所内限定で公開し、そこから出た意見をもとに最終段階に入りました。
そんな中、荒井さんは2010年度から農水産課に異動することが決まり、ダッペエについては当時商工観光課副課長であった石井博臣さんに引き継がれることとなりました。しかし、これまでの経緯を考えればダッペエの日の目を見る時も近い、というお心持で安心して引き継ぎなされたようです。

ところが・・・

石井さんに引き継がれて間もなく、文原さんから一通の連絡が届きました。それは、これまで創り上げてきたダッペエを白紙に戻し、創りなおすとの内容でした。
これまで荒井さんの横で、初期ダッペエが出来上がっていく様子を誰よりもよく知っていた石井さんは、ここまで完成度の高い作品を白紙に戻す!?ということで、大変驚かれたようです。荒井さんの驚きも想像に難くありません。
「何があったのだろか?」その理由もわからぬまま、文原さんの新しいサンプルを待つこと数カ月。初期サンプルとは全く一新されたダッペエが送られてきました。

ダッペエ
ダッペエ登場記者会見
2010年12月6日

これまで創られてきたダッペエがわずかの影も残さない、完全に新しく息を吹き込まれたダッペエ。これが、今我々の知るところのダッペエです。こうなると、初期バージョンをみたい心がくすぐられますが残念ながら、非公開のためそれは叶いません。
ただし、一年をかけて創り上げてきた作品を、一気に覆すほどの文原聡さんの感性、そして郷土への愛を感じずにはいられないでしょう。ちなみにダッペエは、当初から正規の発注ができないことを承知の上で引き受けて頂いた末、最終的にはボランティアでの制作として市に還元頂いたそうです。

まさにアートの真髄とも言えるこの一連の制作秘話、いかがでしょうか。聞いてびっくり玉手箱ですよね。ダッペエがここまで独特のキャラクターであることも頷けるのではと思います。

それにしても、なぜ突然デザインを一新されたのでしょう?

そこで筆者は、お忙しい中無理を押し切って、この点について直接文原さんにお聞きしました。今回の謎の答とともに、この点をお教え頂いて最後を締めくくりたいと思います。

ダッペエ作者文原聡さんに聞く 脱力系にこめられた思い!

一年をかけて積み上げられたデザインを一新されたのはなぜなんですか?

「初期のデザインは、確か『海』や『花』をモチーフにして作っていましたが、それだけだと観光地にありがちなアイディアであり、他の観光地と同じなのではないかと思うようになりました。そこで、東日本で良く使われ、館山の人にもなじみ深い『だっぺ』と呼ばれるキャラクターならではの館山らしさを前面に押し出すように、里見八犬伝の犬を組み合わせたものにしました。」

ダッペエがゆるキャラではなく、脱力系キャラなのはなぜですか?

「ダッペエをメディアで取り上げていただく際になぜか『脱力系』というくくりにされてしまう事はあまり好きではないんですが、ここで伝えたかったのは、館山が紋切型の「癒し」の場ではなく、独特な場であることです。癒しを与える観光地が今たくさんありますが、館山に“癒し”を求めて来るのではなく“脱力”しに来てもらえるようにすれば、館山らしさが一層出て、他との差別化ができるのではという提案をしました。」

RODY kids
RODY kids

館山で育った文原聡さん。世界を股にかけるデザイナーの感性から見た独特の館山を、マスコットキャラクターを通してお伝えくださったのだと思います。
どちらの質問への答えも館山オリジナルであることがキーワードとなっていることが印象的ですが、これは非常に大事なポイントなのではないかと思います。そこでしか味わうことのできない食、自然、空気、体験などたくさん楽しみ方がありますが、こうしたことを求めて人々は館山を訪れるのではないでしょうか。館山らしさに磨きをかけて、よく知ってもらうことで、一層来てくれた方々に喜んでもらえるようになるといいですね。

ダッペエGOODSやLINEスタンプ

ダッペエGOODSやLINEスタンプの購入については館山市のホームページで紹介されています。
館山市マスコットキヤラクター「ダッペエ」の使用についてもご確認いただけます。

ダッペエのページ(館山市) ダッペエのページ(館山市)